彼女の友人というか、すこし大袈裟に言えば仲間には一人完璧超人がいる。
ルックスよし、学業よし、運動能力よし、度胸あり、性格良し、上の覚えもいいらしい。
あえて欠点を上げるならかなりコミュニケーション能力に難があるはずなのだが、それがかえって彼の場合、ミステリアス、寡黙等々かえって良い評価に繋がっているのか周りの女子の人気も上々で、暗に反して男の友達も多いらしい。
まさに完璧。
だけども、かえってそういう人間の方が付き合う分には苦手だなぁ~と感じる人間がいる事も確かな事であり。実の所、彼女こと岳羽ゆかりもまた当初は彼に壁を感じる口の一人であった。
「明日、8時に」
携帯からは、普段聞き慣れない声が流れ出ている。
澄んだ綺麗な声なのに、抑揚がなく酷く淡々とした口調。話している事も酷く事務的な事だけ。
(別にさぁ~、時節の挨拶を挿めとは言わないけど、クラスメイトなんだし。もうちょっと何とかなんないのかなぁ~)
数分前に出したメールからのレスポンスの良さは認めるとしても、いつもいつもながらお決まり口調内容に、ゆかりは少しばかり苛立ちを覚えていた。
だからだろう、彼の「じゃあ」というこれまた電話を切る直前の決め文句に覆いかぶすように、ゆかりは言葉を発していた。
「そういえば、君って電話ばっかりだよね」
向こうで、声の代わりに息を呑む音が聞こえた。
(えっ、やばい。私もしかして地雷踏んだ)
もしこれが順平辺りなら、この程度の反応何とも感じなかっただろう。だが、何しろ携帯の相手は、あの無表情無感情鉄面皮を地でいく彼だ。実にささやかではあったが、予想外の反応にゆかりは思わず慌てた。
「いや、別にそれが悪いって訳じゃないんだけど。何ていうか、メールを使わないの今時珍しいって言うか。君の場合、普段無口だし電話よりメールの方がほら似合うっていうか」
(ああああ、私何言ってんの。全然ホローになってないよ)
携帯を握っていない左手で思わず頭を抱えてしまう。
彼は彼女が何かもし地雷を踏んでいても何も言わないで許してくれるだろう。そんな事はゆかりにもここ数ヶ月の付き合いでわかっていた。だけど、世の中何も言われない方が辛いし、気になる事だってあるのだ。
それでなくても彼とは、クラスメイトのみならず同じ寮生だ。年がら年中顔をつき合わす相手と自分だけとはいえ、気まずくなるのは地味にきつい。
「……遅いから」
(ああもう、何とか言ってくれればいいのに……って)
「へっ? な、何が?」
ゆかりは思わず、自分の薄い携帯を握りつぶさんばかりに両手で掴むと、右耳に押し付けた。
「……メール。余計なとこ押すと壊しそうで怖いし」
「いや、メールで携帯壊れるってないから」
(いやいやいや、怖いって彼が、何を、携帯が嘘)
タルタロスでシャドウ相手に突進し、初めて躊躇なく米神にトリガーを引いた彼が怖い、携帯を。
この二ヶ月ばかりに目の前で起こった事を思い出して、ゆかりは何だか目の前がくらくらとしてきた。
「……前、何押しても反応しなくなって窓口に持っていったことある」
「って、それもしかして」
「……ただのキーロックだった」
「ぷっ」
今までもやもやと行き場を見失っていた感情が、その一言でゆかりの口から漏れた。そして、そうなるともうゆかり自身その感情を抑える事は出来なかった。
「岳羽?」
「あははははは、壊れたって、そんな、はははは」
「そんなに笑うとこ?」
いつもの淡々とした口調ではなく、聞き覚えのないどこか拗ねたような口調にさらにゆかりの笑いの衝動は留まる事を知らなかった。
「あはははははははは」
結局、ゆかりは後五分程も背筋が痛くなるほど笑い続け、彼はいつものとは大分違う何か言いだけな沈黙を保ったのだった。
そして、その日からゆかりの彼に対する評価に少しばかりの訂正が入った事は言うまでもない事だった。
了
後書き
え~、すみません。
めちゃくちゃ適当です。時系列的には二ヵ月後とか書いてますが、実はあんまり考えてません。
独立してSSページを作るほどでもないので、ここで。
読んで頂けたら感謝であります。